Zig
Zigは2016年にAndrew Kelleyさんが個人プロジェクトとして開発を始めたシステムプログラミング言語です。「C言語の後継候補」を掲げ、Cのシンプルさを保ちながら現代的な安全性と表現力を足すことを設計目標にしています。「No hidden control flow」「No hidden allocation」という2つの原則のもと、ソースコードの見た目と実際の動作を一致させる設計が特徴です。2025年現在、0.14がリリースされ1.0に向けた開発が続いています。
名前の由来
言語名「Zig」の由来について、Andrew Kelleyさん自身が公に明言した記録は残っていません。Zigの開発開始から数年は、リポジトリ名・ファイル拡張子の短さ・タイプしやすさが優先された素朴な命名であったと推測されています。後発の言語としてアルファベット最後の「Z」から始める語感、機械的に組み合わせる「ジグザグ」的な響きが、システム言語の質実剛健さに合致したのも自然な選択でした。
2016年: Zigの誕生
Andrew KelleyさんがZigの開発を始めた直接のきっかけは、C言語で書かれたオーディオ処理ツールのデバッグに苦しんだ経験だと公の場で語られています。既存のC言語ではマクロ・プリプロセッサ・未定義動作(Undefined Behavior — 規格で動作が定義されておらず、最適化コンパイラによって予測不能な結果になる現象)といった「罠」が多く、巨大なC言語プロジェクトでメモリ関連のバグを追いかける作業に多くの時間を奪われていました。
「Cと同じ低レベルの領域で使えるが、Cの落とし穴を減らした言語」を自分で作ろうという発想から、2016年にZigの開発が始まりました。当時はAndrew Kelleyさんがほぼ単独で言語仕様・コンパイラ・標準ライブラリを設計しており、初期のリリースは0.1.0〜0.4.0と小刻みに重ねられています。
Andrew Kelley さんの設計哲学
Andrew Kelleyさんは、Zigを「Cの後継候補」として明確に位置付けています。Rustが「所有権・借用・ライフタイム」という強力な型システムでメモリ安全を保証する道を選んだのに対し、Zigは別の道を選びました。プログラマーに型システムによる強制をかけず、その代わりにコードの見た目と実際の動作を完全に一致させるという方向です。
この設計を支える2つの原則が以下です。
| 原則 | 意味 |
|---|---|
| No hidden control flow | コードに書かれていない制御の切り替えを起こさない。例外・演算子オーバーロード・隠れた関数呼び出し(operator==のオーバーロード等)は言語仕様から排除 |
| No hidden allocation | 裏で勝手にメモリ確保しない。アロケーター(メモリ割り当て器)を引数として明示的に渡す設計を全標準ライブラリで徹底 |
「読んだまま動く」というZigのコードの性質は、システムプログラミングで致命的なバグを避けるためのAndrew Kelleyさんの強いこだわりが結実した部分です。
2020年: Zig Software Foundation の設立
2020年、Zig Software Foundation(ZSF)という非営利団体が設立されました。寄付ベースでフルタイムの開発者を雇い、言語仕様・コンパイラ・標準ライブラリ・ビルドシステム(build.zig)を継続的に育てていく体制が整いました。
ZSFは特定の巨大企業のプロダクトではなく、コミュニティ主導で運営されている点がZigの特徴です。RustがMozillaのスポンサーシップから始まり、現在はRust Foundationに移行したのと比べると、Zigは最初からコミュニティと寄付者の自発的な支援によって駆動されています。Andrew Kelleyさん自身も、ZSFのスタッフエンジニアとしてフルタイムで開発に従事しています。
1.0 への道のり
Zigは2025年現在も1.0未満のバージョンで開発中です。リリースペースは年1〜2回程度で、メジャーな進歩がリリースごとに積み重ねられています。
| 年 | 版 | 主な節目 |
|---|---|---|
| 2016 | 0.1.0 | 初期リリース |
| 2020 | 0.7 | ZSF設立、自己ホスティングコンパイラの議論本格化 |
| 2022 | 0.10 | 新セルフホスティングコンパイラの初公開 |
| 2024 | 0.13 | incremental compilation の進展、build.zigの大幅整理 |
| 2025 | 0.14 | 標準ライブラリAPIの安定化に向けた継続作業 |
1.0以降は後方互換性が長期間保証される予定であり、Andrew Kelleyさんは「壊れない言語仕様を提供すること」を1.0の最大のゴールに据えています。一方で1.0までは標準ライブラリのAPIがリリースごとに変わる可能性があり、本番採用するプロジェクトはこの揺れを承知で使っているのが現状です。
現代における Zig の位置
Zigはまだ1.0未満ですが、すでに本番採用が進んでいます。代表的な事例を紹介します。
| プロジェクト | 概要 |
|---|---|
| Bun | Node.jsより高速を謳うJavaScript / TypeScriptランタイム。実装の大半をZigで記述。2023年にv1.0をリリース、以降も積極的に機能追加 |
| TigerBeetle | 金融取引向けの分散データベース。「速くて安全」を追求する金融分野でZigが選定された象徴的事例 |
| Uber | 内部ツールのビルドインフラで zig cc をクロスコンパイラとして採用 |
| Ghostty | HashiCorp共同創業者のMitchell Hashimotoさんが個人開発しているターミナルエミュレータ。Zig製として話題に |
「Zigでコアを書いて、外側は他の言語でラップする」という採用パターンも増えてきています。Zigの設計思想 — 明示性・隠蔽の排除・C 互換性 — は、システムプログラミングの選択肢を確実に広げつつあります。
関連辞典
Zig言語そのものの文法・標準ライブラリ・実用パターンはZig辞典で詳しく解説しています。